みなかみ町北部は眼前にスキー場を望む自然豊かなエリアにある、4頭の元気な看板犬と手の行き届いたイングリッシュガーデンが人気のペンション「朝ねぼう」。ご主人とともにこの宿を営む徳島えり子さん(以下、えりさん)は、昨年暮れにリリースされたご当地情報集積メディア「MINAKAMI PRESS」の運営者でもある。
「当時友達だったケイちゃん(ご主人)がこっちに帰るって言うから、田舎暮らしも楽しそうだなと思って一緒に来てみました(笑)」
その後、トントン拍子に話が進みペンションオーナー家族の「嫁」となる。
ん?ということは、もしかして交際 0日 婚!?
?????
交際・結婚・移住・両親との同居といったライフイベントをほぼ同時に果たす。
すごい、すごすぎる。
東京生まれ、東京育ちのえりさん。
一体どのようにみなかみでの暮らしをはじめ、またどうして「MINAKAMI PRESS」を立ち上げるに至ったのか?
東京が大好きだったところからはじまる
東京都新宿区生まれのえりさんは、小さい頃から友達と遊ぶのが大好き。小学生の時には歌舞伎町を遊び場にして走り回っていたんだそう。
「夕方くらいは人通りも少なく鬼ごっこにはぴったり。何も約束してなくても、放課後になると自然と友達が集まってて。みんな本当に仲がよかった、楽しかったな~。」
大都会東京では子どもが外で遊ばないイメージがあるが、えりさんはゲームやプリクラなどトレンドの遊びも楽しみつつも、外で元気に遊ぶことが大好きだった。
「地元の友達とは今でも家族のように仲がいいです。」
大好きな地元、大好きな友達がいる東京。
それなのになぜ、交際0日でみなかみへ?
ご主人 圭一さんとの出会い
大学ではスキーサークルに所属、そこで同級生の圭一さんと出会う。
「ケイちゃんの第一印象は、虫取りが得意そうな無邪気な少年に見えた。実家がペンションだったからか、人との接し方がとても上手で、みんなと自然と仲良くなるところがすごいなと思ってた。」
同級生みんなで仲が良く、当時は圭一さんもそのうちの一人。えりさんにとって圭一さんは頼りになるよき相談相手という友達関係が卒業後も続いていた。
都内で就職したもののゆくゆくは実家に帰ることを決めていた圭一さん、東京が大好きなえりさんにとっては、仲は良くても「一緒になる相手ではないだろうな」と考えていたという。
好きなことを追及する仕事遍歴|レコード会社→ハワイ→ウェディングメディア事業
大学卒業後、「いつか自分でCDをつくりたい」と思っていたえりさんは、大手レコード会社に入社。
「昔から漠然とアメリカに憧れがあって、ソウルミュージックが大好きで。SOSとか。高校になると同じくファンだった母と一緒に年間200ライブくらい行ってました。」
「音楽に携わる仕事は楽しかったけど、どうしてもアメリカに行ってみたいという気持ちが捨てられなくて。今後、結婚して子供が生まれて...と考えると、今しかないのかなと。東日本大震災があった年だったのだけど、より一層やりたいことをやらないまま人生終わりたくないって強く思いました。」
25歳でレコード会社を退職後、えりさんはハワイへ渡る。そこから2年間、昔から大好きだったアメリカの雑貨や化粧品を卸す会社で働いた。
「帰国後はハワイで培った知識を基にベビーシャワー(妊婦さんの安全祈願パーティー)やデコレーションのレンタルとメディア事業を自分ではじめました。まだ、あまりパーティーの文化が根付いていない日本に伝えたいと思って。」
東京・ハワイで自分のやりたいことを次々に実現して順風満帆な日々を送っていた。
ここから、みなかみに嫁ぐまでが......ものすごい早さよ!!
交際0日、みなかみに嫁ぐ
大手企業との提携も決まり、事業も軌道にのっていた29歳の時。
大学時代の仲間で、みなかみで開催されるフェス「New Acoustic Camp」へ遊びに行くことに。ある日、たまたま圭一さんと2人でその準備のため買い出しに出ていた時のこと。
「(圭一さん)そろそろ会社辞めてみなかみに帰って実家のペンション継ごうかなと思ってんだ。」
「(えりさん)へーみなかみいいな~」
「(圭一さん)ついて来る?」
「(えりさん)行こうかな^o^」
振り返ると、そんな軽いノリの会話を交わしていたそう。
お互い性格もよくわかっていたし、気の置けない圭一さんが実家に帰ると聞いて、純粋に 一緒に田舎で暮らしてみたい と思ったと。ポツリと「楽しかったけど、都会でお金に振り回される生活にも疲れてたのかも」とも。
翌週にはフェスでみなかみを訪れる予定だったため、ご両親に結婚のご挨拶をすることになり、加速度的に話が進むことに。
みなかみへ嫁いでみると
「はじめの一年くらいは、疲れてましたね(笑)
ペンションという環境上、家族以外の人が常に家にいるということに慣れなかった。東京の実家は人の出入りが多い方ではなかったので。」
生活と近い場でお客様をお迎えするペンションの仕事に、最初は戸惑いがあったえりさんだったが、持ち前の適応力の高さであっという間に順応。今ではお客様とのおしゃべりが楽しみであるという。
「実は料理がすごく苦手で...結婚してペンションを継ぐことが決まった日に、料理教室を即行で予約しました(笑)
義理の母に料理を教えてもらいながら、自分でも勉強して。お客様がおいしいと喜んでくれるものができると、やっぱりうれしい。」
東京ではカフェや雑貨巡りが大好きだったというえりさん。
「みなかみには、お金がかからない遊びがいっぱい。
東京で遊ぶとなると友達と会うにも場所代など何かとお金がかかるけど、みなかみではお金がかからない上に大自然の中で贅沢な遊びができる。川や雪で遊んだり、広い公園でゆったり過ごしたり。
こっちに嫁いできてから一年くらいは友達ができず寂しい気持ちもあったけど、子供が生まれてママ友ができてからは楽しくなってきました。」
みなかみの自然・人を通して、新たな暮らし・仕事・遊びを楽しめるようになったえりさんだが、それに至るまでには時間を要した。
その原因は、情報ソースの少なさ。
スイーツのおいしいカフェやおしゃれな雑貨店など、みなかみにも素敵なお店がたくさんあるのになかなか巡り合えなかった。知るすべもなかったという。
「自然の遊び方もそうだし、素敵なお店もそうだし、
都会にもない良さがたくさんあるのに、情報を思うようにキャッチできないなんて
ほんともったいない!」
ないなら作ればいいじゃない、というのがMINAKAMI PRESSの起こり...?
無知だったからこそやりたかった「MINAKAMI PRESS」
みなかみの魅力を、知ってから嫁いできたわけではなく、嫁いできてからよく知ったえりさん。
「恥ずかしながら、みなかみに嫁ぐまで谷川岳が群馬の山であることを知らなかった。帰省した際に、自動販売機で谷川連峰の天然水と書かれたお水が売られているのを見て、これ、みなかみ?!すごい!!有名!!水のおいしいとこなの?!って(笑)」
みなかみは関東平野に注ぐ利根川の最初の一滴を生み出す地であるが、その自然の恩恵を享受する都市生活者の多くは、水道をひねれば流れ出る水がどこで湧き出て、どう流れてといった水の起源をわざわざ知ろうとはしないだろう。
逆を言えば、“その価値を伝えられていない”といったことは、このまちに暮らす我々としての大きな課題であるように思う。
えりさんの友人にも、筆者の友人にも共通するが、
「みなかみ??どこだっけ?栃木?」と言われることもある。または、雪の多いところと知られてはいても、世界に誇る豊かな自然と水源、おいしい水から出来上がるおいしいお米や野菜や果物がたくさんある地という事は広く知られていない。
「ほんともったいない!わたしも暮らしてみてはじめて知ったほど。観光資源がこれほど豊富なのに知られていないことがまだまだたくさん。ペンションに来たお客様もチェックアウト後はどこにも立ち寄らずに、このまま帰りますって人が多かった。せっかくなら、みなかみで遊んでいってよ!楽しいから!と。」
そんな想いを胸に、このまちに暮らす一員として、まちの人みんなで発信するメディアをつくりたいと兼ねてから思っていたえりさんは、「町民みんなでつくる、みなかみ好きのための情報メディア・MINAKAMI PRESS」をインスタグラムで開設。
インスタ上で素敵なお店や季節の情報など、みなかみの魅力を発信している。
「無知でここに来たから、そこから面白いと思った情報を発信できたら、自分のような東京から来る人にも面白いって思ってもらえるんじゃないか。届けられるんじゃないかなって。無知だったからこそできることがあると思って。」
「MINAKAMI PRESS」、これからますます面白くなる
順調にフォロワー数・ファンを増やしているMINAKAMI PRESS。
これからどのように発展していくのだろうか?
「フォロワー数が1000人を超えたら、ウェブメディア化して、観光の方に向けてコンテンツを充実させたい。みなかみのおいしいカフェ〇選とか、こちらに暮らす人にも首都圏から来られる人にも、このまちの素敵なところを役立つ情報として発信していきたいです。」
「めちゃめちゃおいしい野菜や果物を売る直売所がたくさんあるのに、目立たない場所にあったり、グーグルマップにも載ってなかったりというのがもったいなくて。場所ごとにいつの時期に何が売ってるのかわかるそんなコンテンツも作ってみたい。」
好奇心が旺盛でやりたいことがいっぱいのえりさん。
「知らなかったからこそわかること」を武器に、持ち前の適応能力の高さで、ますますみなかみで面白いことを展開していくだろう。
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驚くべき早さで主要なライフイベントを経て、みなかみで素敵な暮らしを実現されているえりさんと圭一さんのご夫婦。交際0日婚、どんな気持ちでえりさんにプロポーズしたのか気になるガメツイ筆者。
最後に、圭一さんにこっそり聞いた。
- 結局、ずっとえりさんのこと好きだったわけ?
「なんか、そうゆう感じするでしょ、こう最後はみたいな感じ。」
- 最後は大事にしたい女性だったってこと?
「まーね。」
結局のところ、ただただラブラブなのであった。
今、えりさん達だけに限らず、従来から一般的にある「家族になるまでの道のり」が多様化しつつある。するとその先にある、暮らし、仕事、ライフワークの形もますます多様化し、そこから面白いものがどんどん生まれるのでは?
地方で面白い人や面白い活動が増えている裏には、「常識を変えていく人達の行動」が影響しているのかもしれない。
グーグルマップに載っていない直売所マップ。現実になるのが今から楽しみだ。
●Information
ペンション朝ねぼう
〒379-1725
群馬県利根郡みなかみ町綱子294-1
TEL:0278-72-6761
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文:Yoshie Moriyama
編集・写真:Kengo Shibusawa
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