夏は登山に釣りにカヌーや川遊び、冬はスキー・スノーボードと一年を通じてアウトドアアクティビティ天国であるみなかみ。筆者も山に惹かれてこちらに引っ越したくちではあるが、それをもっとディープに且つハードに遊び尽くす男たちがいる。
その一人、スノーボードショップ&カフェ「MINAKAMI BASE」店主でプロのスノーボーダーでもある平良光さん。自然との付き合い方をよく知るアウトドアの遊び人だ。
平良さんのことをよく知る地元ローカルスノーボーダーの先輩、笛木辰也さん(通称:tappuu・またはギリギリ建設の専務)はこう称す。
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・ミナカミディガーズの精鋭隊
・奥利根スノーパーク“OKtones”パークプロデューサー
・特大ヒップで誰よりも高く遠くへ飛ぶ
・クリエイティビティあふれる映像編集者
・変態山人
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多才である。が、変態??
↑平良光のシグネチャートリック「ワンフットシフティ」
スノーボーダー平良光の代名詞ともなっている「ワンフット」。片足をビンディングに固定させず解放させた不安定な状態で繰り出すトリックであるが、着地時のバランスや衝撃のことなど考えれば、素人目にはこの技に挑むこと自体が常軌を逸した変態と言わざるを得ない…
小学生の頃に観ていたスノーボード競技会のテレビで、テリエ・ハーコンセンがやっていて、かっけーなって。やってみたいなと思って。 それがきっかけでスノーボードをはじめました。
それから約10年後、今度は平良さんが「ワンフット」で世界のスノーボードフリークを沸かすことになる。
2013年に天神平で「holy bowly(世界最大級の地形イベント)」があって、地元ディガー(雪を掘りパークを整備するひとのこと)として出させてもらいました。世界中のレジェンドたちとセッションできて、それがすげー楽しくて。またこの舞台に立ちたい…立ってやると思いました。
世界のトップとのふれあいを通じて気概ともいうべき何かが自身の中で目覚め、それから本格的にプロとしてスノーボードと向き合っていく。世界各地を転々としながら開催される「holy bowly」は招待制であるため、出場したくてもライダーとして認められないと出場が叶わない。そのため、難易度の高い技に挑み、その様子をInstagramなどで積極的に発信した。それが功を奏して、イタリアのボードメーカーから声がかかりスポンサー契約を結んだ。 後にHikaruTairaモデルとなるシグネチャーボードを世に出すまでになる。
2017年にカナダで行われた「holy bowly」に出場することができて、そこでワンフットを決めたら、会場が沸いてくれて。ミッションひとつ達成できたと思えて嬉しかった。
難易度の高いトリックを成功させることで自分が目立ちたいとはあまり考えず、それによってオーディエンスが沸いてくれることが何より嬉しいのだそう。
お店に飾られている日本とカナダの国旗にはholy bowly2017で共に奮闘した仲間たちのサインが記されてある 。
そんな平良さんは、雪のないグリーンシーズンはみなかみにあるアウトドア会社「キャニオンズ」でラフティング(激流下り)・キャニオニング(滝下り)・洞窟探検などのガイドとして活動している。
もしかしたら冬に谷川岳で舞い上がったあのスプレーが雪解けして、今浴びてるこの滝の水かもしれない、もしかしたら明日ラフティングで一緒に降る激流かもしれない。
そう考えると一年中同じ水の上を遊んでるから"水上"かぁ…とか妄想しながら川で遊んでいます(笑)
冬は雪の上で、春夏は川の上で、遊ぶ。だから水上=みなかみ、か。納得。
山のTopから川に至るBottomまで多くの自然を、多くの人が遊ぶことができる。こんな恵まれた場所は世界を見渡してもなかなかないと思います。リトルアラスカと称する外国人もいるくらい(笑)。そんな、みなかみならではのカルチャーを発信していきたい。
谷川岳周辺には、その良質な雪と滑り応えある地形を求め、国内外から著名なスノーボーダ―が集まり、独自のカルチャーが形成されてきた。世界最大規模のイベントをここで行えたことも大いにその恩恵があるし、毎年開催される「天神バンクドスラローム」や「MINAKAMI VIBES」※ といった大会は、平良さんも含めたローカルたちの力が結集し運営されている。それはスノーボードフリークの間で大きなリスペクトを受け、専門誌の特集を飾るほど注目の的となっている。 ※今シーズンの開催は現時点で未定
ー どうして、みなかみ・谷川岳なのか?
新潟県側のスキー場に山籠もりしていた経験もある平良さんは雪質の違いをこう語る。
新潟では日本海低気圧による大量の雪に楽しませてもらったけど、こちら側の雪は谷川連峰を越えるまでの過程で水分が抜けるのか、軽いんですよね。その軽い雪の上を滑るのが本当にたまらない。
谷川岳の恵みはこんなところにも享受されていた。 最高に贅沢な雪を求め人が集まり、それが熱源となり、また人を引き寄せるという循環が生まれた。
この土地で紡がれてきたスノーボードカルチャーを耕しつつも次代へ伝えるために、平良さんは自費でスノーボードショップ「MINAKAMI BASE」を谷川岳の麓、大穴地区に開店。2019年からはカフェとしても営業している。
みなかみの自然を遊びに来た人が、ふらっと立ち寄れるお店にしたいなと思って。山で見かけた人とここで知り合ったり、情報を交換したりして、そんな場にしたいという思いでBASE(=拠点)という店名にしました。
あのテリエ・ハーコンセンと並ぶほどのスノーボード界のレジェンド、インゲマー・バックマンもふらっと立ち寄ったことがあるという。
↑インゲマー氏がお店の壁に書き残した落書き?いやサイン
因みにこのMINAKAMI BASE、沖縄そばが絶品なのだ。沖縄生まれの平良さんが“ばあちゃん”直伝の味を継承しているという。
スノーボーダーというと北国育ちであるというイメージがあるが、平良さんは沖縄生まれ。現在でも自身のアイデンティティは沖縄にあるという。 昨年も沖縄へ行く機会があり、名だたる沖縄そばのお店を訪ね歩いてみたというが、それに勝るとも劣らないうちの沖縄そば!と太鼓判を押す。
筆者も大好物で、ある日の朝起きてすぐどうしてもこの沖縄そばが食べたくなって来店したが、「沖縄そばは仕込みに時間がかかるのでお昼頃からなんです~」と言われ落胆した記憶がある。
このほか沖縄のソウルフード、タコライスやラフテー丼も提供中。フードはすべてカフェマネージャー・タッキーの担当。雪国で沖縄の本場の味を楽しむことができるというなんとも言えない至福。調味料となる島とうがらしも自家製(みなかみ産・お店の庭先で栽培)というこだわりようである。下味から丁寧につくられた沖縄フードと、ふらっと立ち寄ってコーヒーの最高の相棒となる日替わりマフィン。それに、陽気で明るく話好きな店主の存在が相まって、お店の良い雰囲気がつくられている。
ここボードショップだったよね?と謎に思うほど充実したフード&ドリンクの数々(オリオンビールももちろん常備)。食事処の穴場といったら大変失礼であるが、大穴地区にあるだけにやはり穴場であると最後に言っておきたい。
以下は、前出の笛木tappuu先輩から平良さん紹介のコメント全文。
海人(うみんちゅ)なのに生粋の山人(やまんちゅ) のヒカル。
谷川岳天神平スキー場の春の風物詩といえば、今や日本のスノーシーンを代表する地形イベント「MINAKAMI VIBES」。 天神平の唯一のファミリーゲレンデ「平ゲレンデ」に特大ボウルやヒップと言った数々のヒットポイントがこのイベントのために1週間前から造成されるのだ! この一大イベントの為に町内各スキー場の精鋭ミナカミディガーズが一丸となって作る巨大なスノーテーマパークが突如出現する。 そのミナカミディガーズの中でリーダー的存在と言っても過言では無いヒカル。 特大ヒップで誰よりも高く誰よりも遠くへ飛ぶ、彼のお家芸とも言えるワンフットバックフリップは見る者の度肝を抜く!
MINAKAMI BASE店主で奥利根スノーパーク “OKtones” パークプロデューサー、ミナカミディガーズの精鋭隊、そして彼がプロデュースする DIGtoRISE graffiti の映像はクリエイティブに満ちていて絶えず観るものを飽きさせない!彼のセンスは、生まれ故郷の沖縄からみなかみの地に移住した彼独自の感性なんだと思う。 海人から山人へ 光の野望はまだまだ続く。変態山人ここにあり(笑)。
笛木tappuu辰也
昨年暮れの大雪では大変な目にもあったが、それでもこのまちにとって雪は大切な資源であり宝だ。自然環境の上に成り立った遊び方をよく知ると、自然に対しての感謝が深まる。
自然をよく知り、自然に学び、自然と仲良く遊ぶこと。
ユネスコエコパークに登録され、世界がその自然の豊かさを認めたまち、みなかみ。
始業前やテレワークの休憩時間にひと滑り...家事や育児の合間にひと滑り...
しかもフカフカのパウダースノーで。
そんな豊かな暮らしが、確かにここにはある。
●Information
MINAKAMI BASE
群馬県利根郡みなかみ町大穴80−2
営業時間 7:00~18:00
水・木曜日定休
映像作品
文・編集:Kengo Shibusawa
写真:「MINAKIMI BASE」より提供、一部Yoshie Moriyama , Kengo Shibusawa
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