【GENRYU】まちのこまりごとをかいけつするしごと
「政治」というと堅く難しくなりがちな話題であり、正しくそうあるべきであるとも思うが、難解なことも身近な話に置き換えるとわかりやすく親しみやすい。
では、どこまでわかりやすく紐解けるか?
今回の記事は、その問いの答えを導き出すための実験の場としたい。われわれの暮らしを大きく左右し直結的に関係する「まちの政治」。言葉はわかるが政治のセの字も、議員のギの字もわからない未就学児が、町議会議員に「せいじってなに?」をインタビューする企画。
5歳の保育園児が「まちの政治」に興味を持つことができるか?
といった実験である。
この企画に快く協力してくれたみなかみ町議会議員のお二人

茂木法志さん(35歳)
みなかみ町議会議員一期目
専門分野は「福祉」

牧田直己さん(32歳)
みなかみ町議会議員一期目
専門分野は「教育」
そして、インタビュアーはお絵かきが大好き

翼ちゃん(5歳)
みなかみ町内の保育園年中組
特技は「ポケモンしりとり」
5歳の子どもが、この学びを通じて、まちのコトをじぶんのコトとして捉えていく過程とその起こりを記したい。
以下、対談形式にて。
翼ちゃん(以下、つーちゃん):つばさ5歳です。
茂木さん(以下、敬省略):もっきー35歳です。
牧田さん(以下、敬省略):まっきーです。もうすぐ33歳です。
◎では、はじめましょう。翼ちゃん、質問をよろしくお願いします。
つーちゃん:(恥ずかしがりながら小声で...)なんてきけばいいの??

◎二人は何のお仕事をしているんですか?と聞いてください。
つーちゃん:なんのおしごとをしているんですか?
茂木:よく言えました。つーちゃんが暮らしているまちの色々な困りごとを色々な人から聞いて、それを解決するお手伝いをしているよ
つーちゃん:こまりごとってなんですか?
茂木:例えば、コロナウイルスってわかるよね?つーちゃんやつーちゃんのお友達がそのコロナウイルスにかからないように、まち全体でウイルスから守ったりする方法を色々な人と一緒に考えているよ

牧田:まっきーはね、もっきーと同じようにこのまちをよくしていこうとか、たくさんの人にこの町に来てもらおうとか、そういうことを考えるお仕事をしているよ。つーちゃんの保育園の給食はおいしい?
つーちゃん:うん
牧田:おいしい給食をお友達みんなに食べてもらいたいから、みんなが平等に食べてもらえるように考えたり話し合ったりしているんだよ
つーちゃん:なんていうおしごとなんですか?
牧田:議員というお仕事だよ
つーちゃん:??...ギインてなんですか?
牧田:町長はわかるかな?つーちゃんの通う保育園の運動会でがんばれって応援に来る大人の人が町長だよ。議員というのは、みんなが幸せに暮らせるようにとその町長とお話合いをする人のことだよ(町長と議員の関係性をお絵かきで説明)

茂木:まちのみんなの困りごとがなくなるように、みんなのお話を聞いて意見をまとめて、どうすれば解決できるのかってお話合いをするんだ。さっきまっきーが言った町長とほかの議員さんと一緒に。みんなの力を借りてみんなから選んでもらって、みんなの代表としてお話し合いをする場に立たせてもらってるんだよ
つーちゃん:ダイヒョウのひとはジャンケンできめるの?
茂木:ジャンケンできめるよりも、やります・やらせてくださいと自分で言うと、絶対にやらなくちゃという責任が生まれるし、みんなに応援してもらうこともできるんだよ。だから、まっきーももっきーも自分でやります・やらせてくださいと言って手を挙げたんだ。そして、みんなに助けてもらいながら、みんなの困りごとがなくなるように解決の方法を考えたりお話合いをしたりしているよ
牧田:今日はお外でかまくらであそぼーとか、体育館で鬼ごっこをしよーとか、みんなの遊び方を決めてるよ。...ん、ちょっと違うかな(笑)。議員のお仕事をつーちゃんにわかりやすく説明するのが難しい...
茂木:確かに(笑)。みんなで遊べる大きなかまくらを、みんなで幸せを分かち合いながら作りつつ、遊び方や遊ぶ順番とかルールを考えて決めていくと言った方がイメージ近いかな

◎次の質問です。
つーちゃん:ギインのおしごとはわたしにどんなふうにかんけいありますか?
茂木:いきなり本質的な質問(笑)例えば、つーちゃんが風邪をひいたり病気になったりすると病院へ行ってお医者さんに診てもらうよね。本当はお医者さんに診てもらうのにはお金がかかるけど、いつでも誰でも、子どもたちみんなが安心して病院にいくことができるようにみなかみ町では中学校を卒業するまでは無料にしてるんだ
牧田:人によってお金があるから病院を受けられる、お金がないから病院を受けられない。だとしたらダメだよね。みんなが同じように病院を受けられたほうが良いよね。つーちゃんも、お友達も、みんながね
茂木:少し、わかってきたかな?
つーちゃん:うん、すこし
牧田:この画像を見てみて

牧田:まっきーは昔、モンゴルという国にいたことがあるのだけど、モンゴルではこどもたちが草原の上やまちの道端で寝ていたりするんだ。お金がないと病院にいくことができないから、とても悲しいけど、小さいうちに亡くなってしまう子もいる

◎牧田さんは青年海外協力隊員として2年間モンゴルに赴任。現地小中学校の教育の質向上といった任務に取り組んできた。
牧田:そんな悲しいことが起こらないように、みんなが笑って幸せに暮らせるまちであり続けられるように、話し合って、ルールを決めたり、みんなから“税金”として預かったお金の使い方を考えたりする。それが議員という仕事なんだ。みんながおいしい給食を食べられたほうが幸せだもんね
つーちゃん:もっきーとまっきーは、なんでギインさんになったのですか?
茂木:つーちゃんにお友達がいるように、もっきーにもお友達がいるんだ。お年寄りのお世話をする”介護”というお仕事をしているお友達なのだけど、ある事でとても困っていた。でも、その困りごとを誰にどのように相談すればよいかわからなかった。頼れるところがなかったんだ。それで、このお友達の力になるためにもっきーがその困りごとを解決するお手伝いのお仕事をしたいと思ったことがきっかけなんだよ。今ではそのお友達だけではなく、このまちの多くの人の困りごとを解決したいと思っているよ

◎茂木さんは地元みなかみ町の福祉を支えたいという想いから自身でも高齢者の介護施設を運営している。
牧田:まっきーが議員になりたいと思ったきっかけはね、さっきも話したけどモンゴルにいた時の経験が影響しているんだ。日本を離れてモンゴルで見た美しい草原や星空。そんな綺麗なモンゴルの景色を眺めながら、気づいたことがあるんだ。自分が育った日本のみなかみ町にも同じように綺麗な山や川や水田や星空がある。このみなかみ町の自然の豊かさは、世界を見渡しても本当に凄いことなんだ。そんな、美しい景色がずっと続くように守っていきたいし、そこに住む人の力になりたいと思ったんだ

つーちゃん:ちからになるってどういうこと?
牧田:つーちゃんはみなかみ町のこと好き?
つーちゃん:うん。ママがつくってくれるみなかみのおこめのおにぎりがだいすき
牧田:つーちゃんが好きなみなかみ町のたくさんある良いところ、山とか川とかおいしいお水とか。そのおいしいお水でつくったママのおにぎりは絶対においしいよね。まっきーも食べたいな(笑)そのすばらしさを日本のみんなや世界のみんなに届けたい、そしてみなかみ町へ来てもらいたいと思ってるんだ。それには、上手に宣伝したり、そのためのお金の使い方を考えたりしなければならない。つーちゃんやつーちゃんのお友達も含めたみんなが好きって言ってもらえるような町をみんなの力を合わせてつくっていきたい
茂木:つーちゃんが大きくなって大人になっても、みなかみ町のことを好きって思っていて欲しい。ほかにも好きと言ってくれる人をもっともっと増やしていきたいよね
◎翼ちゃん、集中してよくがんばっていますね。では最後に質問のほか聞きたいことなどあればお願いします。
つーちゃん:つーちゃんとつーちゃんのおともだちが、みなかみまちのことをもっとすきになるほうほうはなんですか?
牧田:みなかみ町でたーくさん遊んでください。雪で、川で。そうすれば、みなかみ町のことがもっと好きになるはずだよ。日本の中でも世界の中でもこんな素晴らしい大自然があるまちはなかなかないことなんだよ
茂木:みなかみ町でしかできないことを見つけてほしい。それと、このまちの友達や仲間を大事にしてください。そのつながりを大事にしてください。ひとりではできないこともみんなでやればできることがたくさんあるよ。このまちがもっとよいまちになるように
◎翼ちゃん、茂木さん、牧田さん、ありがとうございました。三人で記念撮影をしましょう。

5歳の子どもに「政治」のこと「議員」のことを説明するのは、難しい話をするより難しかったという牧田さん。日頃から当たり前のように口にしている言葉が実は専門的な用語であるなどして、伝えたいその趣旨が実は一部の人にしか伝わらないということが多々ある。老若男女が幅広く平等に豊かな暮らしを享受するためのルールや手法づくりが「政治」であるとするなら、お年寄りにも子どもにも同じに伝わる言語が必要である。その点、茂木さん・牧田さんのお二人はその難しい言語を翻訳しつつ、わかりやすく翼ちゃんへ伝えていた。その様を見て、みなかみ町の住民としてとても心強く感じた。
この取材のあと翼ちゃんに聞いてみた。「せいじ」ってなにかわかった?と。
「つーちゃんが大人になってもみなかみまちを好きでいられることでしょ」

翼ちゃんの質問について実は台本を用意していた。だが、話が進むにつれて、はじめは緊張して言わされていた質問は次第に自分の言葉へと変わっていた。まちのことと自分のことを子どもながらに考えていたのだろう。このインタビューが「まちの政治」を自分のこととして考えるきっかけとなってくれれば何より嬉しい。
翼ちゃんが今より少し大人になった時にもう一度聞いてみたいと思う。
「みなかみ町のこと好き?」と。
このまちの未来を担う子どものために、今、大人たちがやらなければならないこと。今回のこの取材の中に、そのヒントが見え隠れしている気がする。
●Special Thanks
会場提供:テレワークセンターMINAKAMI
文・編集:Kengo Shibusawa
写真:Kengo Shibusawa , Yoshie Moriyama ※一部支給あり