【GENRYU】みなかみと、生きる。みなかみが、活きる。

 此処みなかみ町に、独自の地域通貨が存在することをご存知だろうか?

正確にはスマホアプリで決済可能な“電子”地域通貨である。

 

その名も


みなかみを愛するひとの地域通貨

「MINAKAMI HEART Pay(ミナカミハートペイ)」



という。



スマホに専用アプリをダウンロードし、残高をチャージしておくと、町内の各加盟店でキャッシュレス決済が可能となる。また、特定場所での現金チャージで3%・アプリ上でのクレジットカードによるチャージで1%のポイント還元があるため、便利な上にお得。


それに加えて、利用額の1%がみなかみの環境保全に寄付されることになっているため、よく行くスーパー・ガソリンスタンドや顔見知りのお店でこれをかざして決済すると、地元の豊かな自然をみんなで守っていこうという意識を皆で共有でき、なんとなく気分も良い。使わない理由がわからないほどの“みな神”アプリだ。


このMINAKAMI HEART Pay、実は行政が主体となって運用を行っている。


今回のGENRYUは、この地域通貨制度の火起こし役である二人のみなかみネイティブを訪ねた。


みなかみ町役場 大川志向さん【左】・みなかみ町観光協会 林雄一朗さん【右】 

2018年、先進事例の視察がはじまりだった


以前から経済循環とみなかみのファンづくりの手段として、地域通貨に関心のあった大川さんは、当時全国でも先進的な地域ポイント制度を軌道に乗せていた東北地方のあるまちへ視察に向かった。そこで、飲食店でも宿でも商店街でも同じポイントが貯まり、それが同じエリアで使われることの効果、また地域内外の人がその制度を通じて地域そのものを盛り上げようとする様子を見て感銘を受けたという。


「これをみなかみ独自の仕組みとして応用できないか。観光のまちとして、何度もみなかみへ訪れてもらえるような仕組みをつくることはできないか。」


そんな構想を巡らせる中で大川さんは、中学・高校の後輩でもある林さんに相談を持ち掛けた。林さんは観光協会の職員として、観光におけるデジタルでの情報発信やマーケティングを専門にしていた。


「みなかみへ観光でお越しいただく方々のニーズや移動パターンなどを当時は知る術がありませんでした。来訪促進に向けて闇雲に手を打っても、空振りも多くて...。なので、大川さんが持ち掛けてきたデータの採れる地域ポイント案は画期的だと思いました。」と林さん。


行動しながら思慮に思慮を重ねる走攻守揃ったユーティリティー野手タイプの大川さん。フィールド全体をバランスよく見渡し落としどころを見極める頭脳明晰捕手タイプの林さん。この二人がプロジェクトの中心となり、既存モデルを踏襲したみなかみ独自の地域ポイント制度の運用を、2019年秋に開始させるに至る。


ただ、

「皆さんにご迷惑をお掛けし、私たちもエライ目にあいました...」


決済すると貯まるポイントそのものを地域向けの通貨として流通させようとしたため、その仕組みに無理が生じ、決済手続きや端末の操作が複雑になってしまった。そのため加盟店の方々に端末操作上の負担を強いてしまったり、二人が非番の日や深夜にもお客様から問い合わせがあったりと、気の休まる日がなかったという。


ある日、利用者の方から「ポイントが貯まったので、みなかみの観光を楽しみに遊びにきたのに、カードを使えないところが多かった...」とのお叱りをいただいた。観光のお客様に喜んでもらおうと考えての取組みであったつもりが、結果的に満足度を下げてしまうこととなり本末転倒になってしまっている事実に愕然とし、現状変更を決意する。



その後、大川さんと林さんは全国各地の地域通貨制度を一から勉強し直し、ポイントカードから地域通貨へ制度変更すること、還元ポイントの原資負担は加盟店から行政側へ変更することなど仕組みそのものの改善に取り組んだ。


利用者が使いたいとするものでなくてはならない。

加盟店が使わせたいとするものでなくてはならない。


行政本位でなく加盟店たる事業者と利用者本位の仕組みへ、もう一度作り直そうと。


そうして、生まれたものが2020年11月より運用が開始された

MINAKAMI HEART Pay」である。


以前は利用者や加盟店からの連絡はお叱りの方が多かったが、制度変更後は

「使えるお店を教えて」

「ここでは使えないの?とお客さんによく聞かれるようになった」

「どうやったら加盟できるの?」

といった、前向きなご意見をいただくことが多くなった。現在も利用者数・利用件数・決済額すべて順調に伸長し続けており、確かな手ごたえを感じているという。


競合する他のスマホアプリ決済サービスを上回るポイント還元率が利用者に評価されていること、またポイント付与のタイミングを残高チャージ時としたことで自店のポイントカードなどとの干渉を避けられ自由度が高いこと、この二点が奏功していると大川・林の両氏は分析する。



みなかみを愛する気持ちは持続可能性そのもの


ー MINAKAMI HEART というネーミングについて



MINAKAMI HEART は、2017年6月にみなかみ町が「ユネスコエコパーク」へ登録されたことを記念してつくられた言葉で、世界が認めるほどの豊かな自然に育まれたこのまちを誇りに想おう、この宝物をみんなで未来へ守り伝えよう、というみなかみを愛する気持ちが込められている。


「地域通貨を構想し出した時、このネーミング以外考えつかなかった。」と大川さん。


みなかみでお金を使ってもらうことが、みなかみに暮らす人々の営みを支え、結果的にみなかみの自然を未来へ守り伝えることとなる。正に“水と森林と人を育む”といった「みなかみユネスコエコパーク」の理念と重なる。


林さんは言う、「MINAKAMI HEARTは、SDGs未来都市でもあるみなかみの持続可能性そのものなんですよね。」


町外の方が、みなかみ町へふるさと納税を行うとMINAKAMI HEART Payの残高に加算される仕組みとなっているため、みなかみへスキーやスノボ、温泉や登山によく来るという人はぜひ専用アプリをダウンロードして利用してほしい。便利でお得である上に、自然環境の保全にもなる。そして、われわれ住民にとっては暮らしの力となる。MINAKAMI HEART で町内外の人の想いが一つになる感覚がある。



二人の起こりについて


ー大川さんへ質問。どうして みなかみ町役場へ入ったのですか?


「ん〜、なんでだったっけな(笑)」



地域の人の役に立ちたくて...といったような答えを当てにしていた筆者は少々面食らった。大学卒業後は地元のみなかみ町(旧新治村)へ帰ってこようと決めてはいたものの、では何の職につこうかと考えた際に、なんとなく自然な流れで役場へ入ることになったと言う。常に的確な判断力を持つ大川さんのことだから、熟考を重ねた上で大きな志を抱いて地方公務員としてのキャリアを選んだものだと勝手に思っていた。


「山も持ってない、田畑も持ってない、何もつくることのできない自分が社会に貢献するためには、散らばっている原石を組み合わせて新しいカタチをつくり、磨き上げて輝かせることしかできない。」


2014〜2015年には、現在のまちづくりの基本指針となる「まちづくりビジョン」の策定という大きな仕事をやってのけている。林さんはそんな大川先輩のことをプロデューサー気質があると言う。制度や仕組みのアイデアを構想から実現まで色んなひとやコトを最適な形で巻きみながら、走ることを決してやめないのであると。

どうして役場に?の答えは、職として役場職員を選んだわけでなく、自分に何ができるかといった使命を選んだら、結果的に役場職員であったというのがおそらく正解なのであろう。


因みに今一番欲しいものは「山」であるそう。林業をやりたいらしい🌳



ー今度は林さんへ質問。どうして みなかみ町観光協会へ入ったのですか?


「実家が猿ヶ京にあり、いつかは生まれ育った地元に貢献したいという想いはずっと持っていました。ですが県内都市部の会社に勤めていた仕事も順調であったため、地元に関わるのはまだ少し先の話だろうと。それが、2016年にみなかみ版DMO(観光地域づくり組織)が設立されたことが転機になりましたね。DMOスタッフとしてお誘いを受けたこともあり、今まで養ったスキルを武器に観光の盛り上げに挑戦してみようと思い立ちました。結果的に先のことと考えていたことがだいぶ早まりましたね(笑)」


現在もDMOでいくつもの委員会の事務局を務め、観光戦略の方向性を探っていくという重要な役回りを担っている。大川さんは中・高の後輩である林さんのことを、突破力が凄いと評す。何か問題があると、「自分がいってきます」と率先して話をつけてきてしまう胆力の持ち主。またかなりの勉強家であるとも。


身も心も砕け散りそうになる世界最高峰最大級の鉄人障害物レース「スパルタン」に二度目の出場を果たすことがライフワークであるらしい🏃‍♂️



最後に、現在は二人ともまちの観光の中核を担う仕事をしているわけだが、子供の頃から観光に携わる仕事をしたいと思っていたのかと二人に聞いてみた。


二人とも「まったく考えていなかった」と。


むしろ子供の頃から、共同浴場で観光客と一緒にお風呂へ入ったり、実家の民宿で観光で来たお客に遊んでもらうということが日常であったため、観光という敷居はゼロに等しかったと言う。


「おもてなしするのが当たり前というか。」


観光のまちに生まれ育つと、観光に来た人に対する適切な距離感とおもてなしの意識が自然に身につくのだろう。大人になって観光の仕事をすることもこれまでの暮らしの延長線という感覚なのである。


地元の魅力を伝えて、体感してもらい、来てよかったと思ってもらうこと。

そのためにはまず地元が元気でなくてはならない。また、地元が好きでなければならない。


その点、二人は実直に「MINAKAMI HEART」を体現していると言える。



このフレーズを考案した筆者が言うのであるから間違いない...



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文・編集・写真:Kengo Shibusawa