【GENRYU】旅するように暮らし、暮らすように旅する

 パッタイ・トートマンクン・ソムタム風サラダ・バインミー・フランボワーズのガトーショコラ・バスクチーズケーキ・カオマンガイ・カオソーイ・トートマンクン・タイ風なます・ギロピタ・ギュロス・トムヤムフォー・フムス・ファラフェル・レバノンハンバーグ...



上記はすべてみなかみ町で食べることのできる世界各地の名物料理の数々。山々に囲まれたこの町で本当に食べられるの??なぜ??と思いますよね。

居るんです、世界の市場を訪ね歩き、世界の食堂を食べ歩いた料理のつくり手が。


週替わりで世界各地のお弁当をつくり販売する

「旅する台所」店主 仲丸利津子(なかまるりつこ)さん。みなかみ町藤原育ち。



「私を取材して書けることなんて何かありますかね?笑」


 タイ料理が好きでトムヤムクンを食材から作るとか、中華が好きで中華メニューの手料理ならなんでもお手の物よ...いう人は多くいると思うが、アジアからヨーロッパそして北アフリカからアメリカ大陸に至るまで世界各地の料理を満遍なく高い水準で同じキッチンからつくれてしまう人はなかなかいない。どうして??と今ほとんどの読者が思ったはず。この、どうして??は書き手ならたぶん誰もが書きたくなると思います。笑


「毎年二回に分けて各一ヶ月くらいずつ世界各地を歩いてきました。10年くらい続けて毎年。旅のスタイルは少し変わったけど、子供が産まれてからも家族で年に一回くらい旅に出ています。」


旧水上町にある実家の蕎麦屋(2020年に閉店)で働いていた利津子さん、観光の需要期は休みなく働いて、客足に余裕のできる4月と12月は丸々休んで旅に出ていたという。観光のまちだからこそできるワークライフスタイル。


「その地で暮らす人しか行かないような市場や食堂が好きなんですよ。その土地どちの日常を眺めるのが好き。はじめて訪れた街では必ず最初に市場へ行きます。メジャーな観光地は...あまり行ったことがないです。笑」


世界中の市場で様々な食材を吟味し、ローカルな食堂や屋台で食べて美味しいと感じた味を覚えておく。今や日本に居ても世界各国の食材や調味料が手に入るため、帰国した後に五感に焼きついた記憶を辿りその味を再現してみるそうだ。


「父が料理人であったこともあり、幼い頃から美味しい料理や食材に対する興味が尽きなかった。」


大人になるに連れて、食と旅がいい具合に混ざりあっていく。


これまで旅してきた国は数十カ国に及ぶ。その中で特に印象的な地は?と聞いてみた。


インド🇮🇳

インドネシアのウブド🇮🇩

モロッコ🇲🇦

イスラエル🇮🇱

ジャマイカ🇯🇲

アイルランド🇮🇪

...


ヒンズー教の巡礼の地、北インドのハリドワール。好きな街だという

旅か生活、旅か仕事、といった二択は旅好きなら人生を左右するほど重要で悩ましい選択肢であると思う。どちらかを選べばどちらかを犠牲にすることになりかねない。

このあたり、旅を通じて得た感性や知識、経験といった材料を「料理」というカタチに変える利津子さんのバランス力というかアイデアは素晴らしい。好奇心がそのまま生きる糧となっている。


「生きてるうちに世界のいろんな場所をこの目で見て、この足で歩いてみたいなというのが小さい頃からあったのだけど、7歳の時から暮らしてきたみなかみは大好きな場所だし離れたくないというのもありました。」


ー旅先が気にいって帰りたくない。帰らなくてもいいや。とか思ったことはないのですか?


「う〜ん、ないかな。」


行きっぱなしではなく、帰ってくることを目的にした地に足のついた旅。登山と同じだ。


利津子さんの生き方にはテーマがある、


“旅するように暮らし、暮らすように旅する”


ことだという。


インドの街角にて

 実は、筆者も無類の旅好きで家族ができる前は一人でよく旅に出ていた。航空券を握りしめて、宿やルートは気の向くまま行き当たりばったりに...というのが好きだった。旅行と旅は違うのだということも身を以て知った。無論好きなのは「旅」のほうであるが。

社会人になってからというものの、旅⇄仕事という軸の両極に置かれたそれらは、重心がどちらかに偏るともう片方を焦がれるという決して溶け合うことのない対象となってしまった。

なので余計に、利津子さんのような旅と仕事の境界も距離も設けず「旅=仕事」を体現させた生き方をしている人には特別な羨望を覚える。


タイのバンコクにて。息子と

「私もコロナがきっかけですよ。」


 「旅する台所」をはじめることとなった源流を聞いた。実家のお店を閉めたことはコロナ禍とは直接関係ないのだが、お店を閉めた後に働きへ出ていた旅館の客足がコロナ禍で減少し、出勤数も少なくなり、時間に余裕ができた。昔から料理を作ることも食べることも好きで得意であったので、軽い気持ちでお弁当をつくり始めた。現在お弁当製造の厨房を借りて販売もしているお店「Yujuカフェ」オーナーのゆうこさんに「やってみたらいいんじゃない?」と声を掛けられたのがきっかけだ。それが2021年1月のこと。

好評すぎて今では限定30食程度のお弁当の予約を開始すると、瞬時にいっぱいになってしまうほど。美味しい上に“旅を感じられる”ことが唯一無二の魅力である。次回のお弁当は何かな~と期待するのと、次はどこへ旅しよう~と夢想する感覚が似ていてとても楽しい。


「はじめての営業日は15食ほどお弁当を作ってみたのですが、完売。初回に買ってくれた人が2回目に全員がまた買いに来てくれました。それがもう嬉しくて嬉しくて!励みになりました。」


現在は毎週火or水曜日が営業日となっている(Instagramで要確認)。先週は「地中海弁当」、今週は「タイ弁当」、来週は「イスラエル弁当」と、みなかみに居ながらにして世界中の料理がお弁当で食べられる。しかも格別の美味しさで。


モロッコはマラケシュの市場で食べ歩き

ある人が言っていた。みなかみに住んでいると世界との距離の近さを感じると。物質的な距離ではなく、感覚的な距離の近さ。それは筆者も同感である。在住する外国人の多さがその理由であることも多分にあると思うが、世界規模で見ても稀で貴重なみなかみの自然環境、それを存分に遊ぶアウトドアアクティビティ、かつてはヒマラヤを目指す登山家の登竜門とされた谷川岳一ノ倉沢の大岩壁、それらのストーリーから形成された独自のカルチャーがみなかみの衣食住に根付いていることが、世界と近い・世界と同じと感じさせる要因なのではないかと推測する。



幼い時から旅に連れ出していた小学生の長男は将来「洞窟探検家」になることが夢なのだという。冒険好きな父親の影響も大きく受けているらしい。


利津子さんは言う。


I'm traveler, mother and other.


と。


旅はまだまだ続いている。



●Information


 旅する台所 ※営業日は下記要確認


 群馬県利根郡みなかみ町川上377(​Yujuカフェ内)

 https://www.instagram.com/the_travelingkitchen/



下記をクリックすると「旅する台所」Instagramページへ遷移します


文・写真・編集:Kengo Shibusawa ※料理と風景の写真はご本人から支給

取材日:2021.2.18