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【GENRYU】旅館の仕事を通じて奥深いみなかみの楽しみ方を知った


 水上駅を背に谷川連峰支脈の斜面を右手に緩やかな登りの道路を進むと、正面奥に圧倒的な存在感を放つ岩壁が現れる。「俎嵓(マナイタグラ)」とよばれる谷川岳南面に位置する山だ。まな板を立てたように切り立った彫刻のような山肌が特徴的で、修験道が通った時代から近代にかけてはここが谷川岳と“されていた”という記録も残っている。


この荒々しい山肌と相対すように谷川温泉の最奥に佇むのは


『檜の宿 水上山荘』


谷川温泉の一番奥に佇むお宿
ラウンジから眺める谷川源流域と谷川岳俎嵓

谷川岳俎嵓の眺望と極上の泉質を誇る温泉旅館だ。


 「檜の宿 水上山荘」は現在の社長、松本知也さんで三代目。創業は1958年(昭和33年)、今年で64年目を迎える老舗の旅館である。知也さんの祖父にあたる創業者の故・松本巌夫さんは旧国鉄の職員として、1931年(昭和6年)開通の清水トンネルの建設に設計技師として関わっていた。トンネル完成後は国鉄を退職し、後に初代女将となる典子さんと水上で出会い結婚、その後はずっとみなかみで暮らすこととなった。


そのルーツに鉄道と深い関わりを持つ方が此処にもいた。


1931年(昭和6年)に土合~土樽間を結んだ清水トンネル

今回は、このお宿で現在の女将を務める松本ひろ子さんの源流を訪ねてみたい。


「女将になるつもりも、水上で暮らすつもりも、結婚するまではまったくありませんでした。」


女将の松本ひろ子さん

 茨城県古河に生まれ育ったひろ子さんは東京の大学へ進み、そのまま東京へ通うOLとなった。同じ大学の先輩だった知也さんとは社会人となって数年後に結婚し、同じく都内で会計事務所に勤めていた知也さんが家業の旅館に入ることになったことを機に、水上へ引っ越してきた。



「当時は子育てが忙しくて、みなかみで遊ぶ…ということはほとんどなかったような気がします。遊ぶといっても子守としてお弁当を持って朝から夕方まで公園へ行くくらいで、だからみなかみ町にどんないいところがあるかなんて当時は全然知らなくて。」



 子供が成長し、手が離れてくると旅館の現場へ出て働くようになった。

ひろ子さんの実家はゴルフ用品店を営んでいて、いつも色んなお客さんがお店へやってきては会話に花を咲かせる両親を見て、子どもながらにお店は楽しい場所で、お客さんと話す“接客”は楽しいことだと思っていたという。



「旅館での接客時に、今日はどちらへ行かれるのですか?と会話するじゃないですか。当時はみなかみのこと全然知らなかったから、何処どこへ行きますと言われてもそれがわからなくて(笑)だから、お休みの日に色々と行ってみたのです。」



改めて触れるみなかみの景色、初夏の緑と秋の紅葉が特に素晴らしかったという。



「景色の素晴らしい場所はたくさんあるし、自然との距離も近くて、水も空気もおいしくて…みなかみはなんて良いところなんだろう!と、改めて知りました。」


宿泊者だけの特権!朝日を浴びる谷川岳俎嵓

 ご主人の知也さんは忙しい旅館経営の傍ら以前は谷川温泉観光協会の会長も務め、谷川温泉周辺の景観保全活動を積極的に行ってきた。谷川地区へ入ると、ガードレールがアースカラーのブラウンに塗られていることに気がつく。自然豊かな景観を損なうことのないようにという配慮だ。知也さんをはじめとする谷川地区の有志が行政への許可の調整からペンキ塗りまで行ったという。谷川岳俎嵓のビュースポットであるポケットパーク(駐車場と公衆トイレ)は時期になると、色とりどりのお花が咲き乱れ、美観が保たれたトイレは観光客にも評判がよい。これらも知也さんが周辺住民の方々と一緒に取り組んできたものだ。



「5年ほど前に社長が病気をして、しばらくの間、旅館運営の現場から離れたことがありました。私は女将として働き始めたばかりで、その時は何をどうしていいか全く分からなくて…」



 その時も周りのスタッフに大変助けられたという。水上山荘には長く勤めるスタッフが多くおり、先代の頃からスタッフが一丸となって旅館を切り盛りしてきた。



「女将といっても特別なことは何もないので、今も皆に助けられながら仕事を続けています。」



 あたたかい雰囲気に包まれた旅館内は、ここに従事する皆のおもてなしの想いとその一体感が醸し出す空気がそうさせているように思える。文字通り身も心もあたたまる町内屈指の泉質を誇る温泉宿。


これからの季節、ゆっくりと湯につかりながら青々とした初夏の森を眺めるのがおススメだ。


社長の松本知也さんと女将のひろ子さん

●Information


檜の宿 水上山荘


■所在地

 群馬県利根郡みなかみ町谷川556


■ご予約・お問い合わせ

 0278-72-3250



ラウンジや露天風呂のほか、それぞれのお部屋からも望むことのできる谷川岳俎嵓は四季折々に異なる姿を見せ、何度見ても息をのむほど美しい。そして、この地の恵みたる温泉は敷地内にある源泉から湧き上がり、100%混じり気なし(循環なし、塩素消毒なし、加水なし)のままかけ流されている。大浴場の湯口には金物のコップが備え付けられているのだが、一口すするとお腹の中までぽかぽかに。


 

文・編集:Kengo Shibusawa(GENRYU)


※撮影・取材は2021年7月に行ったものを掲載しています

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