【MLC】旅を彩るそば屋
ーMINAKAMI LOCAL CREATORS CREATIVE ACTION. by GENRYUー
週末SLに乗ってお昼を少しまわった頃に水上駅へ到着。改札を抜けて駅の外へ出ると入口に行列のできているお店があり、風になびく純白の暖簾には「手打そば」と書かれている。
みなかみ産ブランド舞茸「すくよか」の天ぷらと合わせたもりそばが看板メニュー
「そば処 くぼ田」
創業は1965年。水上駅前で半世紀以上も観光客や地元の方に親しまれてきたこのまちを代表する人気そば店だ。地元みなかみ産の蕎麦粉と米粉(食味コンクールグランドスラム米金賞受賞の「本多義光」氏の製粉)を使用したみなかみ天然由来成分100%の二八そばを提供している。おそばはもちろん舞茸すくよかの天ぷらがとにかく美味。何度食べても美味。お出汁との相性が抜群。年を増すごとに舞茸が大きくなっているのでは?という都市伝説もある。

三代目となる現店主は久保 渉(わたる)さん。
みなかみに生まれ育ち、大学進学と同時に一度は東京へ出たが、30歳の手前にUターン。それから数年後に先代であるお父さんからお店を承継。奥さんの幸恵さんと数人のスタッフとともにお店を切り盛りしてきた。
筆者がお店を訪れると、そばを茹でる調理場から渉さんがちらっと顔を覗かせ「おぉ、いらっしゃい」といつも落ち着いたトーンで声をかけてくれる。一連の粋な所作は“そば職人”という肩書がよく似合う。しかし渉さん、幼い頃から家業のそば屋を継ぐつもりではいたものの、社会人となり地元へ戻ってくるまでは“そば職人”にはなりたくはなかったのだという。
「昔はラーメン屋をやりたかったんだよね、繁盛させる自信もあった。若い時は鼻息も荒かったから(笑)」
大学を卒業した後は後楽園にある読売巨人軍も御用達の中華の名店へ就職(なんと、あの長嶋茂雄氏にフカヒレ入り中華そばをつくって提供したこともあるとか!!)、ここで一流飲食店のイロハを学んだ後に、夢を一歩ずつ現実にすべく当時都内で一世を風靡していたラーメン店で修行を積んだ。
結婚し、子供が生まれたことを機に満を持して地元みなかみへ帰郷。“日本一うまいラーメン屋”の開業へ向けた準備も兼ねて、先代であるお父さんが営む「そば処 くぼ田」で働くこととなった。
観光地ならではのお店のありかた
「最初の一、二年は親父と喧嘩ばかりしていた。喧嘩というより一方的に反発していたという方が正しいかな。」
先代は、渉さんが都内の一流店で学び得た当時の先進的な調理や接客への関心は薄く、馴染みのお客が来ると席へ行って世間話をし、いっこうに調理場へ戻ってこない。
「毎日イライラしてね、そんなでもお店はなぜか繁盛していたんだ。」
三年ほど経ち、わかったことがある。それは観光地での飲食店のありかた。田舎には田舎の観光地ならではやり方があるということ。都内で流行るお店の真似をしてみても此処ではおそらくお客様はつかない。
また、せっかく駅前にあるのに地域にゆかりのない食材を使い、他でも食べられる料理を出すのでは観光地を背負って商売をする意味がないと考えた。みなかみへ来てよかったなと思ってもらえるような料理を出したい。すると、ラーメンよりもそばへの興味が増し、そばづくりの探究に没頭するようになった。
「店を継いでから気づいたのだけど、親父は昔からすべて実践していたんだよ。」
みなかみらしい食材を使い、みなかみらしいメニューを提供すること。回転が命のそば屋であっても接客は丁寧に、居心地の良い空間と、時間を惜しまずお客様とのコミュニケーションを心がけること。
前述のお客様との長い世間話が終わり、調理場に戻ってきた先代は渉さんにこう言った。
「あのお客さんは一年ぶりにおれに会いに来てくれたんだ。ついでにそばを食べていってくれた。」
現地の人との邂逅が、旅の思い出として何より色濃く残ることがある。先代の奥さん、つまり渉さんのお母さんは一度来てくれたお客様の顔を忘れることがなかったという。
観光地で商売をするということはお客様の旅を彩ることでもある。おそばを旅の思い出のひと添えに。またいつか遊びに来てもらいたいという想いを込めて。
「親父と一緒に仕事をしていた頃、こうしろああしろとうるさく言われなかったけど、背中で指導してくれていたのだと今になると思う。親父のおかげで今もこのお店があるし、今の自分がいるわけだし、感謝しかない。」
50余年積み重ねた親子三代の歴史は、此処みなかみを訪れた数多の観光客の旅の思い出と重なっている。

当Tシャツ1枚販売につき1,000円を「そば処 くぼ田」に支援金として還元。


MINAKAMI LOCAL CREATORS CREATIVE ACTION.
「そば処 くぼ田」クリエイターズTシャツ|4,500円(税込)
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■デザイン意図
そば粉・米粉・みなかみの水といった3つの要素、そして親子3代に亘り水上駅前で営業してきた歴史を3本のラインで表現。それら全てが交わるところにはくぼ田のロゴをあしらう。地域と共に生きているというメッセージを込めて。
■クリエイター紹介
◎湯浅大輔:みなかみ在住ではない。GENRYUアートディレクター。 [WEB]https://www.minakami-genryu.com/

●Information
そば処 くぼ田
群馬県利根郡みなかみ町鹿野沢70-15
http://www.kubota-soba.com/
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文・編集:Kengo Shibusawa(GENRYU)